叙述トリックとは小説の作者が、文章で読者に仕掛けるトリックのことです。
男性だと思っていたキャラが女性だった、語り手が実は犯人だったなど文章で認識をミスリードするテクニック。
ミステリー小説の中でもインパクトが強いジャンルですがどう書けばいいのかやり方がわからない方も多いと思います。
そこで今回は、叙述トリックの作り方や誤認させる文章の書き方を解説します。
- 叙述トリックとはどんなジャンル?
- よくある誤認の種類やNGポイント
- 語り手=犯人構造を作るコツ
叙述トリックとは?性別や年齢など誤認の種類
まずは前提として、叙述トリックとは何か共有しておきましょう。
- 叙述トリックとは?
- 語り手の信頼性を逆手に取る
- 嘘を書くのはNG
- 性別や年齢など誤認の種類
叙述トリックとは?
叙述トリックとは、文章表現そのものに仕掛けられたミステリーの技法です。
他の物理的なトリックは、小説の登場人物を騙すために犯人が仕掛けるものですが、叙述トリックは作者が読者を騙すために仕掛けるものです。
- 物理的トリック:犯人が小説の登場人物を騙す
- 叙述トリック:作者が読者を騙す
犯人は誰か、どうやって犯行を成立させたのか……ではなく「そもそも、今まで読んできた物語の前提が間違っていた」と気づかされる衝撃。
これが叙述トリック最大の魅力です。
読者は文章の字面をそのまま信じて物語を追い、終盤で「実はまったく違う意味だった」と気づかされ、騙されたことに快感を覚えます。
では、どのようにして読者の認識を裏切るのか?その技術の本質を見ていきましょう。
叙述トリックの核心は「描かれている事実」と「読者が受け取る印象」にズレを生じさせることです。
特に、語り手が一人称や限定的三人称の場合は、その人物の主観を読者が“信じてしまう”ため、
そこに意図的な穴を作ることで、一気に物語全体がひっくり返る仕組みをつくることができます。
語り手の信頼性を逆手に取る
叙述トリックで最も重要なのが、語り手=ナレーターの信頼性です。
読者は「語り手の言葉は真実である」と無意識に信じています。
この信頼を裏切るためには語り手の描写をあくまで誠実に見せながら、ごく自然に曖昧にすることが重要です。
そのため、叙述トリックは単なるトリック以上に、語り手の設計が肝になります。
嘘を書くのはNG
叙述トリックは文章で読者を騙すトリックですが、嘘を書くのはNGです。
大切なことは「フェアプレイ」精神。読者を騙すとはいえ、あとから読み返して「最初から伏線があった」と納得できなければただの反則として嫌われてしまいます。
ポイントは以下の通り。
- 情報は伏せるが嘘は書かない
- 文章は曖昧にして誤解を誘導する
- 矛盾を感じさせない情報の抜けで読者を誤導する
- 真相を知った後でもう一度読むと納得できる
嘘を書くのではなく誤認させるのです。何を語るかではなく、何を語らないかを意識することが大切です。
性別や年齢など誤認の種類
叙述トリックのよくある誤認のパターンを紹介します。
- 語り手の主人公が、実は犯人だった
- 男性だと思っていた語り手が、実は女性だった
- 若者の男女だと思っていたら、どちらも高齢者だった
- 複数の事件が起きた時系列が違っていた
- 二つの視点が別人だと思っていたら、同一人物だった
- 三人称視点だと思っていたら、監視していた犯人の一人称視点だった
具体的な小説のタイトルを挙げてしまうと重大なネタバレになってしまうので伏せますが、読んだことがある方なら作品が浮かぶと思います。
叙述トリックの作り方!読者をミスリードする書き方
叙述トリックの中でも特に強烈なインパクトを与えるのが「語り手=犯人型」です。
つまり主人公だと思っていた視点人物が、実は犯人だったというパターン。
- 語り手=犯人型の基本構成
- 何を書かないかを考える
- 一人称と三人称を組み合わせる
- どんでん返しに納得するか
語り手が読者を騙し続け、終盤で一気に反転させる構造の作り方を解説します。
語り手=犯人型の基本構成
語り手=犯人型の叙述トリックの基本的な構成は以下の通りです。
- 語り手を善良な協力者として描写する
- 探偵を支える人物、被害者に同情的なキャラなど
- 読者の信頼を得る描写を初期に配置
- 「冷静」「理性的」「常識的」な語りを重ねる
- 犯行シーンはスキップまたは曖昧に処理
- 「気がつけば朝だった」「記憶が曖昧だった」などで省略
- 事件に関する客観的な事実は語らせない
- 第三者が状況を語るまでは、語り手の解釈のみで進行
- 終盤で証言や映像、日記などで立場が反転
- それまでの語りが欺瞞であったことを暴露
- 語り手が真相を自白する or 他者に暴かれる
- 読者がすべてを再構成できるラストを用意
犯人から程遠いキャラクターとして設定することで、読者の信頼を得て叙述トリックが成功しやすくなります。
何を書かないかを考える
叙述トリックでは「何を語るか」よりも「何を書かないか」が重要になります。
語り手の性別を明言しない、立場を意図的にぼかすなどの書き方によって読者は勝手に登場人物の属性を決めつけてしまいます。
- 「彼女」とは一度も書いていないのに、語りのトーンで女性だと思い込ませる
- 「家に帰った」と書かれているが、それがどこの家かは明言していない
- 現在進行形に見える描写だが、実はすべて過去の回想だった
このような視点の誤認こそが叙述トリック最大の入口です。
語り手が犯人の場合、犯行の瞬間を描写することはできません。代わりに、その前後の描写や心理描写でうまくごまかすことが必要です。
- 犯行直前まで:詳細な心理描写(不安、怒り、混乱など)
- 犯行シーン:「私は気づけば外にいた」などの断絶
- 直後:「あの夜のことは夢のようにぼやけている」などの曖昧表現
嘘をつかずに文章の曖昧さを活かして誤認させましょう。
一人称と三人称を組み合わせる
ミステリー小説では、章ごとに一人称視点と三人称視点を切り替える構成を使うのも有効です。
- 一人称で親しみやすい語り手を描き、三人称で事件の進行を描写
- 最後に「一人称の語り手が真犯人だった」と明かす
- 三人称で探偵視点を描き、視点切り替えで犯人の行動だけを描く
- その人物が犯人とは明言せず、読者を“誰か別人”だと思わせる
客観的な三人称描写は、正確な事実として読者は受け取ります。
しかし実際には何を描写して、何を書かないかという選択の時点で、すでに情報操作が行われているのです。
- 「Aは笑った。だがBはうつむいていた」
- 読者は「Bは怪しい」と思うかもしれないが実際はAが犯人
- 「探偵は現場を見回し、どこにも異常がないと判断した」
- 実は異常を見落としたことを意図的に書いていないだけ
- 「部屋の中には誰もいなかった」
- 遺体の存在には一切触れていない。つまり「誰」の定義が操作されている
どんでん返しに納得するか
叙述トリックは結末を読んだ後に再読する楽しみがあるジャンルです。
認識が違っていたというどんでん返しを食らったあとに読み返し、
「この描写はそういうことだったのか!」「気づかなかった」と驚きと納得が生まれるような書き方をする必要があります。
そのために以下の点を意識しましょう。
- 真相に関わる情報は物語中にすでに提示されているか
- 嘘は書いていないか(誤解させているだけか)
- 語り手の主観と事実が区別されているか
- 一度目に読んだ時と、二度目に読んだ時で見え方が変わる構造
これらのポイントを押さえておけば、読者が納得できる叙述トリックを作ることができます。
真相を明かすタイミングは物語の設計上の山場です。
読者が今までの物語を一気に再解釈できる瞬間を演出することが大切です。
- 第三者の事実によって語りを客観視させる
- 語り手自身の懺悔や暴露で読者を感情的に引き込む
- 最後の一行で、物語全体を再定義する
信頼できたはずの語りが最後に崩れる。その瞬間をどう演出するかが勝負です。
叙述トリックの作り方:まとめ
今回はミステリー小説で使える叙述トリックの作り方や誤認させる文章の書き方を解説しました。
- 叙述トリックとは、作者が文章で読者を騙す手法
- 嘘を書くのはNG
- 代表例は語り手の主人公が犯人のパターン
- 性別や年齢の誤認など種類はさまざま
- 何を書かないか、再読して納得できるかが重要
叙述トリックは文章力や表現力が問われる難しい手法です。しかしうまく書ければ読者に強烈なインパクトを与える小説になります。
ミステリーの参考記事。

