書簡体小説とは、登場人物が書いた手紙を通じて物語が展開される小説のことです。
今回は手紙形式の小説について3つのパートに分けて解説します。
- 特徴や効果
- 具体的な書き方
- 普通の小説の中で手紙を表現する方法
書簡体小説は登場人物の心情がダイレクトに伝わり、読者を物語の中へ引き込む独特の効果があります。
でも「どうやって書けばいいの?」「普通の小説と何が違うの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は書簡体小説の特徴や効果、書き方のテクニックまで詳しく解説します。
また、普通の小説の中で、手紙をどう表現すればいいのかもお伝えしています。
手紙形式「書簡体小説」の書き方を解説!特徴や効果は?
まずは書簡体小説とはどんな形式なのか、特徴や効果について解説します。
普通の小説とは違い、登場人物たちの直接的な会話や描写が少なく、手紙のやりとりだけで物語が進むため独特のリアリティや臨場感が生まれるのが特徴です。
- 書簡体小説の特徴とは?
- 読者に与える効果
- 代表作やおすすめ小説
書簡体小説の特徴とは?
書簡体小説とは、手紙のやり取りを通じて物語が展開する形式のことです。
通常の小説では作者が登場人物の行動や心情を説明してくれるため、読者は作者というフィルターを通して物語を読み進めることになります。
しかし、書簡体小説は一味違います。
読者は登場人物が書いた「手紙」を読むことで、物語を追体験していくことになります。

書簡体小説ではその形式上「作者の視点」が介入しません。
まるで誰かの手紙を覗き見ているような感覚で、登場人物が何を語り何を伝えようとしているのかを読み取ることになります。
書簡体小説の特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 登場人物の個性や心理が直接伝わる
- 一人称視点の主観的な語りが魅力
- 自然な形で時系列が整理される
- 書き手のバイアスや誤解が含まれるためミステリーにもぴったり
手紙という個人的なメッセージを使うことで、通常の小説とは違った親密さやリアルさが生まれるのが書簡体小説の大きな特徴です。
手紙形式の効果
書簡体小説は、通常の一人称や三人称で語る形式とは違う効果があります。
通常の小説と異なり、作者の視点ではなく登場人物たちの生の声を直接感じ取れるんです。
- 私的な手紙は書き手の本音が表れやすい
- 手紙を書いている「その時」の感情が直接的に伝わる
- 登場人物同士の生の声で物語が進む
たとえば、主人公が親友に宛てた手紙には、人には言えない悩みや本音が赤裸々に綴られているかもしれません。
恋人への手紙なら、情熱的な愛の言葉や切ない片思いの気持ちが綴られているでしょう。
手紙は、特定の1人に向けて送るメッセージなのでリアルで生々しい感情や思いが綴られていることが多いです。
そのため、人間臭く感じさせて物語への没入感をさらに深めてくれます。
代表作やおすすめ小説
書簡体小説がどのような形式なのかは実際に読んでみた方が理解しやすいでしょう。
ここでは、特に有名な代表作をいくつかご紹介します。
- 若きウェルテルの悩み(ゲーテ)
- あしながおじさん(ジーン・ウェブスター)
- 十二人の手紙 (井上ひさし)
- 三島由紀夫レター教室(三島由紀夫)
- 恋文の技術(森見登美彦)
- こころ(夏目漱石)
夏目漱石の『こころ』は全編が書簡体になっているわけではありませんが、後半が「先生」の手紙の内容が語られています。
効果的に手紙を使った名作として参考になるので、ぜひ読んでみてください。



次に、実際に書簡体小説を書くための具体的なポイントについて解説していきます。
書簡体小説の書き方!手紙の具体的な表現方法
ここからは手紙を使って物語を進めていく方法について解説していきます。
書簡体小説は手紙のやり取りだけで物語を組み立てるため、ちょっとした工夫が必要です。
文体や時系列の整理、手紙の型などポイントを押さえて、読者がスムーズに物語に入り込めるようにしていきましょう。
- 送り手と受け手の関係性を明確にする
- 日付で時系列を伝える
- 文体で個性を出す
- やり取りの流れを作る
- 手紙の型を決めておく
送り手と受け手の関係性を明確にする
書簡体小説を書くうえで、最初に考えたいのが「誰が誰に向けて手紙を書くのか?」という点です。
手紙の送り手と受け手を明確にすることで、物語の方向性が決まります。
- 1人の主人公が複数の相手に手紙を書く
- 2人の登場人物が交互に手紙をやり取りする
- 複数の登場人物がそれぞれ別の相手とやり取りする
また、誰と誰がどんな関係にあるのかを最初にしっかり決めておきましょう。
- 幼なじみ同士の友情を描く
- 師匠と弟子のやり取りを通じて成長を描く
- すれ違う恋人たちの心情を表現する
関係性が明確になると登場人物がどんな言葉を選び、どんな感情を手紙に託すのかが自然に決まってきます。
手紙のやり取りの回数や頻度も関係性によって変わってきます。毎日手紙を送るような仲なのか、数年に一度のやり取りなのか。
手紙のやり取りをするキャラクターの関係性を考えておくことで、よりリアルで魅力的なやり取りが生まれます。
日付で時系列を伝える
書簡体小説は、手紙を通じて物語が進むため時系列をしっかり整理することが大切です。
手紙の冒頭や末尾に日付や差出人の名前を記載することで、読者が時系列を把握しやすくなります。
たとえば以下のような感じです。
1892年5月10日
親愛なるエミリーへ
君からの手紙を受け取り、胸がいっぱいになった。久しぶりの便りに、懐かしい気持ちがこみ上げる。
日付を活用することで伏線を仕込むこともできます。
たとえば、過去の日付の手紙が後になって発見されることで物語の真相が明らかになるような展開ですね。
文体で個性を出す
手紙を書く人物によって文体を変えることで、キャラクターの個性を際立たせられます。
普通の小説とは違い手紙の文体は書き手の性格や時代背景を反映するものになります。
たとえば、同じ内容でも文体が変わると印象が大きく変わります。
- カジュアルな文体
-
ねえ、元気?最近全然会えなくて寂しいよ!前に話してたあの映画ついに観たんだけど。
- フォーマルな文体
-
拝啓いかがお過ごしでしょうか。先日はご連絡いただき、ありがとうございました。さて、先日ご紹介いただいた映画を拝見いたしましたが…。
親しい友人同士ならカジュアルな口調になりますし、上下関係のある関係なら敬語を使ったり少し距離を感じる表現になるかもしれません。
また方言を使うと、書き手の出身地を感じさせることも可能です。
やり取りの流れを作る
書簡体小説の形式には一方的に送られた手紙を読むパターンもありますが、基本的には2人の手紙のやり取りで物語が進んでいきます。
やり取りの流れを自然にするために以下のポイントを意識しましょう。
- 相手の手紙に対する返答を必ず含める
- 新しい情報や出来事を加えて話を進める
- 手紙の書き手の気持ちの変化を表現する
読者に対して情報をどこで提示していくか、普通の小説よりも構成するのが難しいかもしれません。
手紙だからこそできる「情報の小出し」で読者が先を読み進めたくなる表現をするのも効果的です。
「最近、兄の様子が少しおかしい気がする。何か隠しているのかもしれない。」
という手紙がきて、後に兄が秘密を抱えていたことが明らかになる。
「この前の手紙に書いたこと、もう忘れてくれないか?」
過去の手紙を読み返すと、重要な伏線が隠されていたことに気づく。
手紙だからこそ、情報を断片的に提示できるのが魅力ですね。
手紙の型を決めておく
書簡体小説での手紙は、ある程度の型を決めておくと書きやすくなります。
基本的には以下の構成を使うのがおすすめです。
- 冒頭のあいさつ:親愛なる田中へ、拝啓田中様など
- 本題:伝えたいこと、質問、報告など
- 締めの言葉:またお手紙待っています、敬具など
型が決まっていることで、読者も情報の整理をして読み進めやすくなります。



次に普通の小説の中で手紙を効果的に使う方法を解説します。
小説の中で手紙を書く方法!書簡体形式でなくても使える
ここまでは全編が手紙で構成されている書簡体形式の書き方について解説してきました。
ここからは普通の小説の中で使える手紙文の書き方や活用方法について解説していきます。
書簡体形式でなくても、手紙を上手に使うことでキャラクターの心情を深く表現したり、伏線を張ったりできるんです。
- 物語のアクセント
- 心情を手紙で伝える
- 伏線として使う
- 感情が動く場面で使う
- 隠された情報や誤解を利用する
物語のアクセント
物語の中に手紙を挟むことで、読者にちょっとした変化を感じさせられます。
たとえば以下のような場面で手紙を挿入すると効果的です。
- 亡くなった親友の手紙を見つけ、思いがけない事実を知る
- 兵士が家族へ最後のメッセージを送る
- 遠く離れた人物の手紙を挟むことで違う場所の出来事を読者に伝える。
通常の書き方では表現できない場面でも、手紙を使うことで描写できるようになります。
心情を手紙で伝える
手紙が書き手の心情が素直に伝えられやすい形式です。
普段は口にできない想いや、隠された感情を手紙に込めること読者の心を揺さぶることが可能です。
- 普段は強がっている人物が、手紙の中でだけ本音を打ち明ける
- 直接言葉では伝えられなかった気持ちを手紙に残す
- 「出すか、出さないか」迷いながら書いた手紙が物語のキーになる
読者は登場人物の手紙を通じて、まるでその人の心の中をのぞき見しているような気持ちになります。
だからこそ手紙を使った心情描写はとても効果的なんです。
伏線として使う
手紙は、物語の伏線を張ったり読者を驚かせるサプライズとしても活用できます。
- 最初は何気ない手紙だったものが後の展開で真相を示す手がかりになる
- 「言えないことがある」と書かれた手紙を後で読み返すと言葉の裏にある真実が明らかになる
- 間違った相手に手紙が届いてしまい、大きな誤解が生まれる
手紙の特徴に「タイムラグ」があります。書いたときと読むときではタイミングが違いますよね。その時系列の違いを使って伏線にしたり仕掛けを作ると効果的です。
感情が動く場面で使う
小説の中で手紙を使うタイミングも重要です。
ポイントは以下のように感情が大きく動く場面で使うこと。
- 別れや再会
- 過去を振り返る
- 真実を明かす
- クライマックスでのどんでん返し
もう会えない相手に向けた最後の手紙や、昔を思い出して読む手紙は泣ける話にぴったりです。
また手紙によって真相が判明したり、思っていた事実がひっくり返る展開も読者の印象に残ります。
隠された情報や誤解を利用する
手紙はあえて「隠された情報」や「誤解」を生むための道具としても使えます。
登場人物の主観が入るため、事実とは異なることが書かれていたり読み手の解釈次第で意味が変わることもあります。
- 「本当は君のことが」の続きが破れていて最後の言葉を推測するしかない
- 「彼は私の隣で寝ている」と書かれていて実は永眠しているという意味だと後でわかる
- 「君のために遠くへ行く」と書いた手紙が相手を守るための嘘だった
手紙を単なる「情報伝達の道具」としてではなく、物語の展開を動かす仕掛けとして使うことで読者の興味を引きつけることが可能です。
手紙形式「書簡体小説」の書き方:まとめ
今回は手紙形式で物語が進む書簡体小説の書き方を解説しました。
- 特徴は手紙のやり取りだけで物語が進むこと
- 登場人物の心情が伝わりやすい効果がある
- 夏目漱石の「こころ」などが代表作
- 文体や情報の出し方を工夫して様々な表現ができる
書簡体小説は、登場人物の主観的なメッセージで物語が進みます。そのため、キャラの個性や文体の工夫が重要になってきます。
「どう伝えるか」を考えながら、手紙を活用するとより魅力的な物語が作れますよ。
形式が似てる日記体小説については以下の記事で解説しています。

