日記体小説とは、登場人物の日記という形で物語が進む形式のことをいいます。
他人の日記を読んでいるような感覚で登場人物の気持ちを身近に感じることができます。読みやすいこともあり人気の形式の一つです。
今回は、日記体小説の特徴やメリットと書き方のコツを解説していきます。参考になるおすすめ作品も紹介しているので、ぜひ最後までチェックしてください。
この記事ではフィクションとしての日記体小説の書き方を解説しています。
自伝のように自分の人生を記録した「日記文学」とは異なります。
日記体小説の書き方!特徴やおすすめの作品
まずは日記体小説とはどういった形式の物語なのか、特徴やメリット。そして参考になるおすすめの小説を紹介します。
- 日記体小説とは?
- リアルな感情が書かれている
- メリットは読みやすいこと
- おすすめの日記体小説
日記体小説とは?
日記体小説とは、文字通り日記形式で書かれた小説のことをいいます。
普通の小説は作者がキャラクターの視点を通して出来事を説明したり描写していきます。
しかし日記体小説では、主人公が自らの日記として物語を記録する形式で描かれています。
- キャラクターが日記をつけるような形式で書かれた小説
- 日付を入れながら、その日に起きた出来事や感想が書かれている
リアルな感情が書かれている
日記体小説には以下のような特徴があります。
- キャラクターの気持ちが直接的に書かれる
- 情景描写が少ない
- 時系列で進むので読みやすい
日記体小説は物語が基本的に主人公の視点を通じて進むため、読者はあたかもキャラクターの内面を直接のぞいているかのような感覚になれるのです。
他人に見せないことを前提としている日記の性質上、普通の一人称よりも感情や気持ちが全面に出るためリアルな人間味を感じられます。

主人公が怒りの感情をむき出しにするような場面を例に違いを比較してみましょう。
例文:普通の一人称
僕は破れた本のページを見て、血が沸騰するのを感じた。大切な本をこんな風に返すなんて。もう我慢できない。
「田中!」声を荒らげて立ち上がった瞬間、周りの目が僕に集まった。
例文:日記体小説
今日、マジで生まれて初めてこんなに怒った。田中が私の大切な本をボロボロにして返してきたんだ。教室で全力で怒鳴ってやった。
こんな悔しくて腹が立って泣きたくなる気持ちは初めてだ。ムカつく!田中め!
普通の一人称はリアルタイムでその瞬間を描写していますが、作者のフィルターを通しているため「血が沸騰するのを感じた」など冷静に見えますよね。
しかし日記体は、出来事を振り返って感情を素直にはきだしています。そのため読者が主人公や感情に共感しやすくなります。
また、日記なので情景描写がほとんどありません。
すべてが主人公の主観によって書かれているものなので周囲の状況よりも自分の感情が優先して書かれています。
メリットは読みやすいこと
日記体小説の普通の形式よりもかなり読みやすいというメリットがあります。
まず前述したように、主人公の心情がメインなので情景描写がほとんどありません。そのため、スラスラ読み進めることができるのです。
特にラノベの読者には「情景描写が苦手」という方も多いので読者層によっては日記体小説が好まれやすいと思います。


また、日記体だと文章が比較的短くて簡潔に書かれていることが多いので、テンポよく読み進められます。
さらに日付ごとに区切られているので整理しやすく読みやすいのがポイントです。
- 日付ごとに話が区切られている
- 1日の出来事がひとまとまりになっている
- 時系列が明確で物語の進行がわかりやすい
普通の小説は章や節で区切られていますが、日記体小説なら1日ごとにわかりやすく区切られているので長編が苦手な読者にも読みやすいのが特徴です。
おすすめの日記体小説
日記体小説とはどういうものなのか実際に読んでみるのが一番わかりやすいでしょう。
そこで日記体小説の名作や個人的なおすすめ作品を厳選して紹介します。
タイトル | 作者 |
---|---|
アルジャーノンに花束を | ダニエル・キイス |
箱男 | 安部公房 |
正義と微笑 | 太宰治 |
一番のおすすめはアメリカの作家ダニエル・キイスによるSF小説「アルジャーノンに花束を」。
6歳児なみの知能である32歳の主人公が手術により天才に変わるという内容です。
序盤は、ほとんどが「ひらがな」で書かれていて幼児のような文章になっています。それが知能が上がるにつれて文章力が増して複雑な思考も書かれるようになります。
日記体小説という形式を最大限活かしている名作です。
日記体小説の書き方4つのポイント
日記体小説をうまく書くには、日記形式ならではのポイントを押さえることが大切です。ここでは、初心者でも取り組みやすい5つのコツを紹介します。
過去を振り返って語られている
普通の小説はリアルタイムで物語が進行していきます。
回想形式だったり、時系列を入れ替えた書き方もありますが、基本は主人公の身に今まさに起きている出来事が描写されています。
しかし日記形式だと違います。日記は1日の終わりにその日の出来事を思い起こして書くものですよね。
つまり日記体小説は、すでに起きた過去の出来事を振り返って語られているということになります。
- 普通の小説:リアルタイムで語られている
- 日記体小説:過去の出来事を振り返って記録している
常に日記を持ち歩いて、目の前の出来事をリアルタイムで書き留めているわけではありません。家に帰ってから机の前で思い出しながら書いているのです。
そのため時間や感情の流れを意識して書くのがポイントです。
キャラの感情がどのように変化していったのかを細かく描いたり、現在の視点から改めて過去を解釈し直すということも可能です。
「振り返って語られている」という形式を活かすことで共感される小説になります。
主人公以外の感情はわかりにくい
日記体小説では、主人公以外の情報があまり書かれないことが多いです。
- 日記の軸が主人公の感情
- リアルタイムの出来事ではない
リアルタイムの出来事なら、目の前にいる人の表情や仕草なども明確に描けます。
しかし日記だと主人公が思い出しながら書くので他人の些細な変化について書かれることはほとんどありません。
「彼はこう思っていたにちがいない」という書き方はできても、他のキャラクターの感情を読者に伝えることが難しいんです。
つまり読者は、主人公以外のキャラクターに興味を持つことがないということ。
そのため日記形式は、主人公の内面や変化が軸になる小説には向いていますが群像劇のように複数のキャラを魅力的に描く作品には向いていません。
文体はキャラクターによる
日記体小説では文体がそのまま主人公の個性を表します。年齢や性格、語彙力などを書き手によって変えることができます。
- 小学生:漢字をあまり使わない
- 元気:軽い口調やカジュアルな言葉遣い
- 真面目:丁寧でしっかりした表現を使う
おすすめの日記体小説でも紹介した「アルジャーノンに花束を」は見事に文章を書き分けています。
なぜ日記を書いているのか?という理由によっても文体や書き方は変わってくるでしょう。
誰にも見せるつもりがなければ、汚い言葉遣いで友人の悪口がたくさん書かれているかもしれません。
文体を工夫するだけで、同じ物語が全く違った印象になることもありますよ。
書き手の認識と事実は違う
日記は目の前の出来事を記録しているわけではないので、書き手の主観的な認識で語られています。
簡単に言えば、書き手の認識と客観的事実が違う可能性があるのです。
普通の小説はキャラクターの視点を作者というフィルターを通して描写している形になります。そのため地の文に嘘を書くことは小説のルールに反しています。
しかし日記体小説は登場人物が書いた小説をそのまま読者が読んでいるという形式です。すべて主人公の主観や認識でしかないのです。
出来事の捉え方や解釈は主人公の価値観や感情に大きく左右されます。この特徴を活かすことで、キャラクターの個性や心理をより深く表現できます。
たとえば、同じ学校の出来事でも、いじめられている生徒の日記と、傍観者の日記では全く異なる描写になるでしょう。
いじめられている生徒は些細な言動も悪意に感じ取り、不安や恐怖を日記に書くかもしれません。
一方で、傍観者は同じ場面を「普通の会話」として書くかもしれません。
認識と事実が違うという特徴はサスペンスやミステリーとも相性抜群です。
- 全くの別人が書いた日記だった
- 「彼女は僕の隣で眠っていた」が永眠の意味だった
- アリバイ作りのために書かれた嘘の記録
「あの事件の日、私は一日中家にいた」という日記の記述が、実は事件の証拠隠しのためのアリバイ作りだった、というような展開も可能です。
日記は書き手の主観や認識によるものという特徴は、叙述トリックを絡めるのに最適なスタイルなんです。
日記体小説の書き方:まとめ
日記体小説とはなにか、書き方のポイントを解説しました。
- 日記体小説とはキャラクターの日記形式で書かれた物語
- 読みやすくリアルな感情が描かれているのが特徴
- おすすめの名作は「アルジャーノンに花束を」
- 書き手の認識と事実が違うこともある
日記風小説は、主人公の内面をリアルに描くことで読者を物語に引き込む魅力的な形式です。
ミステリーやサスペンスとも相性抜群で、工夫次第でいろんな作品に仕上げることができます。ぜひ挑戦してみてください。