小説を書くとき三人称視点をどう使うかで物語の印象が大きく変わりますよね。
三人称視点には3つの種類がありそれぞれに特徴があります。
この記事では、三人称視点の種類や書くときのコツを例文と共に解説しています。
- 三人称「一視点」「多視点」「神の視点」の特徴
- 地の文や心理描写の書き方
- 心の声(モノローグ)の描写
三人称小説の書き方を解説!3種類の視点の特徴
三人称視点は語り手がキャラクターの主観ではなく、外側から客観的に物語を語るスタイルのことです。
一人称だと「私は言った」となるところを「鈴木は言った」のように本人の視点ではなく外側から観察するように描いていきます。
三人称視点の中にも3つの種類があり、それぞれ特徴や使い方が違います。
視点 | 特徴 |
---|---|
三人称一視点 | 特定の人物の視点で描く |
三人称多視点 | 複数の人物の視点で描く |
三人称神の視点 | 全ての人物視点・ナレーションもできる |
3つの視点の呼び方は覚える必要はありません。小説の講師や作法本によっても呼び方は異なっています。
それぞれの特徴を解説します。
三人称一視点
三人称一視点は、物語を特定のキャラクターの視点から描くスタイルです。
基本的には主人公を視点人物にして描いていきます。
この視点では、そのキャラクターの感情や考えを深く掘り下げられるため読者が登場人物に親近感を抱きやすくなります。
- 視点キャラクターの行動や感情を中心に描ける
- 他のキャラクターの気持ちは視点キャラクターの推測や観察を通して表現する
三人称一視点の場合は、一人称と同じように人物の心の中や思考を描けることが特徴です。
例文
- 一人称
-
私は電車の窓から降り注ぐ夕陽を見つめていた。スマートフォンの画面を確認する。彼女からの返信を待っているのだ。既読マークはついているのに、返事はまだ来ない。胸が締め付けられる。
- 三人称一視点
-
山田は電車の窓から降り注ぐ夕陽を見つめていた。スマートフォンの画面を確認する。恋人からの返信を待っているのだ。既読マークはついているのに、返事はまだ来ない。彼の胸が締め付けられた。
一人称の「私」をそのまま名前に変えるだけで三人称一視点になるので書き方はほぼ同じです。
そのため初心者にはもっとも描きやすい視点だと思います。
迷ったら三人称一視点を使いましょう。
書き方のポイントは視点を固定することです。シーンが進む間に視点を切り替えないことで、読者がスムーズに物語を追えるようになります。
また、キャラクターの感情を行動や表情で示すと読者が共感しやすくなりますよ。
三人称多視点
三人称多視点では、物語を複数のキャラクターの視点から描写します。この方法を使うと、物語を多面的に描くことができて奥行きや深みが生まれます。
章ごとに視点人物が変わる群像劇でよく使われる手法です。
- さまざまなキャラクターの考えや感情を描ける
- 1つのシーンで視点は切り替わらない
三人称一視点を複数の人物で行うといった感じです。ただし1つのシーンの中で視点が入れ替えるのは読者が混乱する原因になります。
第一章では鈴木視点、第二章では田中視点など章やシーンごとに視点を区切り、切り替えた際には誰の視点かを明示することが大切です。
三人称神の視点
三人称神の視点は、語り手が全てを知っている「全知全能」の立場から物語を語る方法です。
この視点を使えばすべてのキャラクターの感情や考え、さらには未来の出来事まで自由に描写できます。
- 1つのシーンでどのキャラクターの内面も描写できる
- ナレーションのような描写もできる
1つのシーンでも登場人物すべての内面に入り込むことができて、さらに登場人物が知らないナレーションのような描写もできます。
例文
鈴木は試合の敗北に悔しさを感じていたが、山田の中ではその何倍もの自責の念が燃えさかっていた。この経験が2人を成長させたこと気づくのはまだ先である。
三人称神の視点は、一見すると自由に書ける便利な視点だと思うかもしれません。しかし自由に書けるからこそ一番難しいのです。
現代では三人称神の視点で書かれる小説はほとんどありません。
読者にとって混乱しやすい視点なので、特別な意図がない限り使わないほうがいいと思います。
初心者におすすめの視点
初心者におすすめの視点は「三人称一視点」です。
神の視点は難しく読者も慣れていないため、プロ作家でもなかなか使いません。
三人称多視点は慣れてくれば物語の幅を広げることができますが、小説を書くことになれていないうちは視点がブレてしまいがちです。
三人称一視点なら、一人称と同じように内面を描くこともできるので最も描写しやすい手法です。
出版されている小説でも最も使われている視点なので、本棚にある小説をいくつか読んでみてください。参考になる本がたくさんありますよ。
三人称小説の書き方!地の文や心理描写を書くコツ
ここからは三人称視点で地の文や心理描写を書くときのコツを解説します。
今回は3種類の中でも基本となる「三人称一視点」を使っていきます。
地の文は行動とともに描写する
三人称視点で地の文を書くときのコツは、キャラクターの行動とともに描写することです。
三人称だと客観的に物事を読者に伝えることになりますが、人物の行動を交えないと奥行きがでません。
風景や音、匂いなど五感を使った表現を入れると効果的です。
たとえば「空が青かった」だけではなく、「青い空に白い雲が浮かび、鳥のさえずりが遠くから聞こえた」と書けば、その場所がどんなところか、読者がイメージしやすくなります。
登場人物の行動を織り込むともっと生き生きします。
「彼女は草の上に座り、風に揺れる花をじっと見つめた」などと描くと、人物の動きや表情が頭の中で想像できますよね。
説明のバランス
読者が物語に夢中になるためには、地の文を使ってリアルな描写を心がけることが大事です。
登場人物の行動を細かく描くと、その場面がリアルに感じられます。
「彼はドアに手を伸ばし深呼吸をした後、静かにノブを回した。」と書けば、その瞬間の緊張感が伝わります。
しかし説明をしすぎると文章が重たくなってしまいます。
「彼女は学校に行った」とだけでは足りないけれど、「彼女はバッグを肩にかけ、急ぎ足で通学路を歩いた。道端には小さな花が揺れていた」くらいの描写なら自然に情景が浮かびます。
読者が想像できる余白を残しつつ、説明と描写のバランスを意識できるといいですね。
心理描写は感覚を使う
三人称の心理描写は、キャラクターの心の中を読者に伝えることが大切です。そのためには感覚を使った表現が効果的です。
たとえば「太郎は不安だった」とだけ書くより、「太郎の手は汗ばんで震え、心臓の音が耳に響くようだった」と描けば、読者にその緊張感が伝わります。
また、状況や行動を描きながら心理描写を織り交ぜると自然です。
「彼は視線を落とし靴先を見つめた。その動作が迷いを語っているようだった」といった表現ですね。
読者に共感してもらえる心理描写を目指すと、物語全体の深みが増します。
心の声(モノローグ)の書き方
一人称では主人公の心の声(モノローグ)をそのまま地の文で書くことができます。
客観的に描写する三人称でも書き方しだいでは地の文に心の声を入れることが可能です。
モノローグの例文
美奈は電車の窓から遠ざかっていく故郷の街並みを見つめていた。離れていく風景に胸が締め付けられる。
なぜあの時もっと強く言い返せなかったのだろう。父の反対を押し切って東京に行くと決めたのは自分なのに。でも、これでよかったんだ。ここで諦めたらきっと後悔する。私には夢があるんだから。
美奈は鞄の中の合格通知書に手を触れ、自分の決意を確かめるように深く息を吸った。
二段落目が視点人物のモノローグになっています。途中で文体が変わるので使い方によっては読者に不自然さを与えてしまうかもしれません。
1つの小説の中で多用すると、しつこさを感じて感情移入できなくなるのでほどほどにしておきましょう。
まとめ
三人称小説の書き方を解説しました。
- 一視点:特定の人物の内面も描ける
- 多視点:複数のキャラクターの視点から描写
- 神の視点:全知全能の立場から描く
三人称で地の文や心理描写をするには少しコツが必要ですが、客観的に描けるという点では初心者にも扱いやすい視点です。
小説の視点に迷ったら「三人称一視点」で書いてみましょう。